HEAVEN

ドバイに着いたサイクスは、警察を説き伏せ展望デッキに設置されていたCCTVの動画を見せてもらうことに成功しました。動画には展望デッキにある写真撮影のためのガラスの隙間から外に顔を出すヌネシュの姿が映っていました。しかしヌネシュは明らかに怯えた様子でいったん首を引っ込めます。サイクスはこう言います。
「娘は下を見下ろしてびっくりしたと思うんです。頭の中がパニックとなってひどく怯えたと思います。その後、頭を引っ込めていったん下がった娘は天を仰ぎました。自分を勇気づけたかったのかもしれないし、あるいは何かを祈ったのかもしれません。次に顔を出すとそのまま身を隙間に滑らしました。誰も気づかなかったようでした」

1640フィート落下したヌネシュの体は3階のアマールレストランのテラスで見つかりました。2014年11月16日、日曜日の午後でした。
エマールはヌネシュの飛び降りがあった後、展望デッキのガラスの隙間にセーフティバーを設けています。

観光ビザでドバイに入国し、マッサージの仕事を探していたヌネシュは、2011年頃知り合ったビジネスマンにぞっこんだったことを、WhatsApp（スマホ向けのインスタントメッセンジャーアプリ）のメッセージが示していた、自殺する2日前にヌネシュはその相手と逢うことになっていた、とそこまでは掴めました。しかし警察から返却された携帯からはSIMカードが抜かれていて、それ以上のことはわかりません。ヌネシュが自殺を考えるに至った手がかりは失われつつあります。

「娘は、拾った野良猫を相手にレイキ・ヒーリングを始めました。いつも人々を癒やそうとしていました。アラブとアラブの文化が好きでイスラム教に転向もしました」。サイクスは述懐します。

「娘は、彼に夢中だったのでしょう。でも彼は娘が思ったほどは愛してなかったのでしょう」
「娘は、昔から傷つきやすかったんです。生まれつきの兎唇でした。子供の頃にはよくからかわれました。30代を過ぎても気にしてか手術を受けていました」




4: 現在、展望デッキにはガラスの隙間にセーフティバーが設けられています。



5: ヌネシュとサイクス