HEAVEN

しかし、彼女はスローガンの内容については恥じ入ることはなかった。
「園児は早い段階で『くそったれヤンキー(American bustard)』について学びます。そして北朝鮮の外敵に対する防衛力は、韓国の28,000人という兵力よりもはるかに多いと知らされます」
それは、北朝鮮政府がアメリカとの和平を目論むときでさえ、復讐心を抱き続けるということを意味する。

「彼らはアメリカと和解することはあり得ないと教えられるのです」。
北朝鮮のプロパガンダを分析し、本に著したアメリカの学者、ブライアン・マイヤーズは言う。
「彼らは未来永劫、憎しみ続けることでしょう」。
近年、平壌などの都市部では、反米主義のポスターに変わって、工場で働く労働者などの図柄が増え、経済に力を入れ始めているようにも映る。
しかし北朝鮮の幼稚園は相変わらずだ。ポスターであれカリキュラムであれ。


AP通信の記者たちが訪れた幾つかの幼稚園のうちのひとつ、Kaeson幼稚園では、アメリカ兵は巨大な鼻とずるがしこい目をもつ猟奇趣味的な野蛮人として描写されている。
ポスターの中でアメリカ兵は、歯をむきだし、焼けた鉄で捕虜に烙印を押し、女性に野犬をけしかけ、少女の歯をプライヤで抜く。
驚くのは、Kaeson幼稚園がモデル校だという事実だ。


登園すると園児たちは整列し、体操の後に愛国的な歌を唱和する。昼食は米や魚、豆腐などが配られる。お遊戯の時間があり、一輪車に乗る練習などをして午後４時には軽食と豆乳を与えられる。

カリキュラムの中で歴史の授業は多くの時間が割かれる。内容は金正日の少年時代のエピソードや日本の統治下にあったとき、朝鮮戦争時の暮らしなどだ。


「まず初めに、我々はアメリカの帝国主義者たちが戦争を始めたということを教えます。戦争に伴い国が２つに裂かれたということを次に教えます」と語るのは、教師を務めて15年というJon Chun Yongだ。
「以来、我々人民は半世紀にわたって裂かれた痛みに耐えなければならなかったのです」と彼らは、歴史とは別の物語を語ろうとする。

Kaeson幼稚園ではお絵かきの時間だ。
女の子は瑠璃色の魚の群れをクレヨンで描いた。その隣の男の子は画用紙いっぱいに戦車の絵を描いた。もう１人の男の子は戦場そのものを描いた。北朝鮮の飛行機が爆弾を落とし、戦車が血まみれのアメリカ兵を蹴散らしていく。男の子は韓国の大統領、李明博の名も絵に書き加えた。

子供たちの間で流行ってる戦争ごっこは、アメリカ兵と北朝鮮兵の二手に分かれ、英語でアメリカと書かれたヘルメットをかぶった子供が、参加者の３分の２を占める北朝鮮の兵士役に殴られ、ひざまずいて慈悲を乞うといったものだ。


しかし、取材が行われた平壌での至る所で、小さな子供たちは恐れを抱くことなく記者に手を振り、「hello」と英語で話しかけてきたこと、昨年12月の金正日の葬儀の時にニューヨークヤンキースのロゴが入った野球帽をかぶった男の子を見かけたことは特筆しておかねばなるまい。