HEAVEN

■それであなたはいつ私を飲みに誘ってくれるの

ジョアンは今から２年前に、45歳の夫、ジョンと別れました。離婚当時、妊娠７カ月の身重でした。
22年間という結婚生活のおよそ半分を妊娠に費やしたジョアンは「スーパーママ」として、得意げなポーズをとる夫、ジョンとともに写真に映り、しばしば地方紙の見出しを作りました。
しかし、一見幸せそうに見えた夫婦生活も裏にまわれば、運送会社で長時間働くジョンと子育てに追われるジョアンとの間ですれ違いが生じ、ジョンが酒に浸りはじめたことで彼女は離婚を決心しました。

こうして2008年、15人目の子供、インディアナを出産したジョアンですが、その年の６月、レジャーセンターのイベント・コーディネイトを仕事とするクレイグ・ソバージュ（34）と関係をもちました。
クレイグはジョアンが４人目の子供を出産したときの隣人でもあったことから恋の進展は早かったものの、ひと夏のお遊びで終わる筈でした。ところが、最初のデートから３週目に彼女が妊娠していることがわかったのです。

２人は婚約しました。しかし自分の人生のうちで初めて父親となるクレイグの前には、14人という継子の「群れ」がいます。恋がどんなに盲目にさせたとして、月に食費だけで1,340ポンド（約17万円）かかるという現実にきちんと向き合える男性はあまりいません。しかし、このいわば「明からさまなワナ」にかかったようにもみえるクレイグは健気にもこれをチャレンジだとみなし、打ち克つ自信があると主張します。

結婚式は出産前におこなわれる予定だそうです。そして結婚するまでクレイグもジョアンも一緒に住む予定はないとのことですが、クレイグはこれからいっしょに住む11人の子供たち（上の3人はすでに独立）の名前を覚えるのに余念がありません。

すでに独立しているのは、ナターシャ（21）ブラッドリー（20）シャニース（18）の３人。
そして、マライア（15）ジョージア（13）ケイトリン（11）ブルターニュ（10）フェブリアンヌ（9）チャーリー(8)リリーアーナ(7)ネリリージェイド（6）アルマーニ（4）タルーラ（3）インディアナ（1歳10カ月）の11人。また上から４番目にはオーガスティナと名付けられた赤ちゃんがいましたが、出生４時間後には死亡しています。
独立したナターシャには５歳の息子がおり、シャニースにも１歳２カ月になる息子がいます。この２人の息子にとってはクレイグはもう「おじいちゃん」です。


「15年前、隣人として初めてジョアンに会ったとき、なんて美しい女性なんだろう、そのうえなんて愛らしい人なんだろうってよく思ったものです。それがとつぜん、今年になってぼくの勤め先のレジャーセンターで見かけるようになって、声をかけてみました。彼女は変わらず綺麗でした。
ある晩、帰宅するため車で駐車場を出ようとしたところ、彼女に呼び止められました。『いま誰かといっしょにいるの？』『いいえ』ぼくが答えると彼女はこう言いました。
『ふーん、それであなたはいつ私を飲みに誘ってくれるの？』。携帯の番号を教えてもらって翌日に会おうとメールしました」

その後も地方紙などからジョアンがたくさんの子宝に恵まれているということを知り、つい最近夫と別れたという話も聞いていたというクレイグは、関係したのはなりゆきで、妊娠したとジョアンに告げられたときにはショックだったといいます。
「まわりに対してきまりが悪かったというのもあるよ。でもよく考えてみた。ジョアンは美しくかつ素晴らしい母親であることはまちがいない。そう考えるようになったのは自分には母親といい関係を保てなかった時期があったことも関係している。いま彼女を愛し、彼女なしには生きられないといった状況で、ぼく自身が幸せならば他人がどう思おうと関係ない」

すでに亡くなった母親が彼を虐待したことからドラッグに向かったというクレイグはその後、ドラッグの所持と窃盗で二度の収監を経ています。ドラッグは６年前にリハビリをうけて断ちました。
また彼には精神病を患う兄がおり、その兄は母親殺しの罪で2007年に有罪判決を下されました。兄も法廷で亡母エレインによる虐待を訴えていたといいます。

「過去は過去よ。誰にだって身内の恥のひとつやふたつは持ってるものよ」ジョアンは述べます。そして運命の日、駐車場でクレイグを呼び止めたのも衝動的なものだったと語ります。

「子供たちには子供たちのパパがいるのだから」というクレイグは、パパの代わりとしてではなく、友達として子供たちとつきあいたいと願っています。そんな新しい「大きなお友達」に対し、子供たちは「ママが幸せならばあたしたちも幸せよ」と言い、おおむね歓迎のようです。


※追記：ガーンジーは英王室属領ですが、独自の政府をもちイギリスの法律や税制は適用されません。法人税がないに等しいことで日本ではタックスヘヴンとして知られるガーンジーですが、島内に大学はないためにイギリス本土の大学に留学し、手厚く支援をうけた学生が、住宅費や生活費が高いガーンジーにもどらないということに頭を痛めてもいるようです。