HEAVEN

今の彼女に鼻を囓られた時の痛みは思い出せません。しかしそれから味わった辛苦は彼女の心に深い影を落としました。
「幼い頃からずっと友だちはいませんでした。まわりの人たちは私のことを恐ろしげに見るのです」
同級生からはいじめられ、それかといって貧しい暮らしから逃れられる筈もありません。口数も少なく卑屈になったという小英でしたが、成績は中の上。しかしお金がないため、高校に進学することはできませんでした。

小英は祖父母の世話をしながら、なんとか自分でも稼ごうとあちこち仕事を探しましたが、きちんとした就職口は見つかりませんでした。求人広告をみて面接に行ったときには、顔を見るなり帰されたこともありました。
今回、福州にやって来たのは、同郷の村人が「あそこには稼げる仕事があるよ」と言っていたのを父が聞いたからでした。

小英の父は、あの時、自分がそばにいてやれなかったことを今でもずっと悔やみ、自分のことをいまだに責めているそうです。
少し稼ぎが多かった時に、父は娘にも今時の格好をさせてあげたいと思ったのでしょう。小英に流行の衣服を買い与え、髪を染めるお金を出してくれました。父は小英に鼻の再建手術をうけさせるため、お金を少しずつ積み立ててもいます。
そんな父の背中を見ながら、もう仕事には就けないと諦めていた小英でしたが、再び求職の道を探しはじめました。

道行く人々の中には、彼女に50元銭を握らせ、励ます人々も多くいます。しかし省婦連就業服務中心では、仕事を斡旋するにも彼女の中学中退という学歴に難色を示しているといいます。