HEAVEN

奇病に苛まれはじめた5歳時からの治療費は、貧しい彼女の家を借金漬けにさせました。隣近所、親戚、友人、そして村に住む人々ほとんど全てに1度は金を借りたことがあるといいます。17年来、田運婷を苦しめてきた血管瘤はまるでそれ自身、金を喰らって成長していくかのようでした。両親は金を返しては借り、返しては借りのくり返し。それもやがては返済が滞り、彼女の家は「肉包子打狗(肉団子で犬を打つ)」の言葉どおり、金を貸しても返ってくることはないとまで言われるようになりました。

更に家族は2度ばかり高利貸しに金を借りたことがあります。
1度目は、彼女の弟、田運攀が生まれたとき。母親の黄桂蓮が産後に大出血をしたときでした。そして2度目は田運婷が湘雅医院で3回目の手術を受けたときです。
これまでの3回の手術は、いつも動脈からの大出血の危険を孕んだ難しいものでした。術後には半月ほどの入院加療を必要としますが、彼女の家の状況から早めに退院しなければなりません。

1995年の春にはこんなことがありました。菜種を急いで収穫して田植えを始めなければいけないという時節です。
転んでしまった田運攀の血管瘤が擦れて出血し、診療所に急遽入院するという事件があった後、父親の田祚元がまちがえて桐油を飲み、中毒から命を落とす寸前にまで至りました。このときさえも貧しさから治療費を惜しまざるを得ず、しかも弟の田運攀は2歳になったばかり。また連日の大雨で菜種の収穫はできず、植えたばかりの苗さえ倒伏しました。
母親も祖母も外に出て働き、ショッピングセンターなどで稼いだわずかなお金でギリギリの生活をまかないました。

今では1年を通して南方に出稼ぎに出る父親の田祚元の収入が頼りです。竹細工師としての腕をもちながら需要がなく、肉体労働で稼ぐ父親の年収は13000元。そのうち、持病の腸炎の薬代と生活費を除いた11000元あまりを家に送るのです。
今年15歳になった弟の田運攀が父に続きました。中学を中退した田運攀の肩に食い込む枕木の重さは、そのまま「生きていくこと」の重みです。

田運婷は2008年の秋に、永州職業技術学院の医学校区で勉強するために故郷から千里も離れた遠方に不自由に曲がった足をひきずりながらやって来ました。
初めての遠出でした。十数時間のバスの旅は血管瘤を圧迫しないよう、立ったり中腰になったりと、着いたときにはほとんど昏倒するほど消耗したといいます。しかし臨床医学の勉強をはじめた彼女ですが、明けて今年の3月には職業技術学院の講師たちに勧められ、休学して再々度の手術を受けました。あと何回、手術を受けなければならないのか、それは彼女自身にもわかりません。