HEAVEN

―重慶晩報―
わずか6歳の女児が母にうけた盗みの疑いを晴らすため、自らの小指を包丁で切り落とすという痛ましいできごとがありました。

この女児は、現在重慶市紅嶺病院に入院している張楽楽(6歳)。包帯におおわれた左手の小指は爪楊枝ほどの太さの鋼針が埋め込まれています。また強い明かりで患部が照らされているのは、指先の体温をあげて血液の循環をよくするため。大のおとなでも傷口をこうして温めると呻き声をあげるといいますが、楽楽は表情すら落ち着いています。
手術が終わって3日目の一昨晩は、激しい痛みのためか、看護婦いわく一睡もできなかったという楽楽。しかし女児はひと言も発することなく、大きく澄んだ瞳だけで想いを語ろうと決めたかのようです。

事件は11月29日、重慶市キ江県石壕鎮の楽楽の家で起こりました。
楽楽の父親、張台さんによると、家族は夫婦と楽楽のほかに病気がちの祖父と障害をもった祖母との5人暮らし。暮らし向きはけしてよくありません。また妻も現在妊娠七ヶ月の身重の体です。張台さんが朝早いため、しぜん楽楽が家事の多くをこなすようになりました。

今年小学校に通い始めたばかりの楽楽は、昼休みにいったん家にもどり、昼ご飯を作って後片付けをするほか、帰宅するとすぐに夕餉の支度の手伝いが待っています。暇があれば山を上ってブタの餌となる草を刈り、父親が帰ってくれば健康を気遣う言葉をかける姿はまるで家を切り盛りしているよう。いわゆる「よくできた」子供でした。
絵が好き。しかし絵筆は買えません。将来は市内の大学に行って勉強し、いい仕事を見つけて両親に楽をさせることが夢だと話していた楽楽。その言葉どおり、家の手伝いに追われても学業はずば抜けていたといいます。負けず嫌いで意固地な面もあったようです。

午前10時過ぎ。母親は5角(約7円)銭が失くなったことに気づき、炊事場で楽楽を問い詰めました。
楽楽は頑として折れません。あまりの頑なさにカッときた母親は「盗ってないって言うのならそれでもいいわ。そんな泥棒する手だったら切っちゃいなさい」と捨て台詞を吐いて立ち去ります。
言葉そのものは強かったものの、それほど気にも留めなかったという母親が炊事場にもどってくると、楽楽が服を血に染め、右手に包丁を握ったまま立ち尽くしています。かまどの上に切断された楽楽の指がのっていました。

「十指連心(十個の指先はすべて心と繋がっている、転じて身体のどんな小さな部分でも心とは不可分)」という言葉がありますが、小指を失った楽楽は叫びもせず、泣きもしませんでした。
代わりに床に跪いてわあわあと大声で泣き出したのは母親です。近所の住民がこの声を聞いてとんで来ると、楽楽をみておどろき、すぐに父親の張台さんに知らせました。張台さんは指をもってキ江県の人民病院に楽楽を連れていきます。しかしここでは指の接合は難しく、午後には市内の紅嶺病院に移されました。

医師の話では、小指の指には傷が6つあることから、楽楽が6回包丁を振り下ろして切断したことが考えられるそうです。また張台さんの処置がよかったため、指の接合には成功したそうです。しかし、手術費にと、しまっていた服と交換にこしらえた6000元のお金はまたたく間になくなってしまいました。
張台さんは次の借金のあてを探すのに現在奔走しています。