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2008.10.31 (Fri)

ティナ・スモール物語(26)

81030a.jpg私は目の前のティーカップに手を伸ばしました。
つんと鼻を刺すようなミントの香り。でもいったん口をつけると、舌先から愉悦が全身にひろがるように感じました。
煙草をふかしながらゆっくりと煙を吐き出す私を、二人が冗談を言い合いながら見つめています。

ほかのお客さんが到着するまでまだしばらくかかりそうだったので、私たちは気晴らしに庭を歩くことにしました。犬たちも尾を振りながら私たちの後につづきます。
歩きながら、ズリフィカールさんが自らの生い立ちを語りはじめました。この家がアン女王の時代に建てられたことにはじまり、サウジアラビアに生まれ、イギリスで教育をうけたズリフィカールさんのこれまでの生涯が語られます。
「父には16人の妻がいたんですよ。そのおかげで僕には47人の兄弟がいましてね。もちろん全員知ってる訳ではありません。名前と顔が一致しない兄弟もたくさんいます。
イギリスで勉強したい旨を父に言うと、父は賛成してくれました。僕はケンブリッジに通い、専攻はエンジニアリングでした。でもどちらかというと、あまり大学では目立たないほうで、ふだんは講義そっちのけでポーカーにのめり込み、卒業する頃にはポーカーの知識のほうが豊富だったかもしれません」

「それでは今のズリフィカールさんのお仕事はエンジニアなんですか?」
ズリフィカールさんは大きく笑いながら、若い私の突拍子もない受け答えをやんわりとかわします。
「僕の職業はみんなを楽しませることです」
しかし当時のわたしは、彼の言葉を真に受けとり、ちょっとした失望さえ感じたことを憶えています。彼があえて言葉にはしなかった生いたちをぼんやりと感じとることはできましたが、それを言葉としてとらえることができなかったのです。

急に黙り込んでしまった私に対し、ズリフィカールさんは話題を変えました。
「この家は海軍大将の未亡人から買ったんです。3年ほど前にね。今夜は中東風のディナーをご馳走しましょう。もちろん僕の手作りです。きっと楽しんでいただけることと思います」
ジムのほうをうかがうと、彼はなにかもの思いに耽っているようで、私たち二人には無関心でした。
邸に向かいはじめたところで、中庭に一台の車がはいって来ました。
ズリフィカールさんを見つけたのか、車は目の前で停まると、なかから三人の男性と一人の女性が下り立ちます。私はこういうときの付き合い下手を感じながら、ズリフィカールさんの後に続きました。
しっかりよ、ティナ。わたしはまだ15歳なんだし、もっと楽に振るまっていい筈よ。自分の心にこう言い聞かせます。

まだ夕方にしても暑かったので、男性は全員半袖のシャツでしたが、女性はドレッシーに着飾っていました。髪は黒。しかし胸は豊かで、私とほとんど変わらないほどの大きさが目をひきました。
ズリフィカールさんが、車から下りた四人にわたしのことを紹介します。
「こちらはクリスティーナさん。厩舎で僕の馬の面倒をみてくれています。いや、じつはアルサバが珍しくこの女性に恋におちてしまって」
「はっはっは。無理もないでしょうな」。男性のひとりが私の胸を一瞥してこう返します。

私はといえば、この種のジョークにはまだ引っかかるものがありました。おそらくそれが表情にもあらわれたのでしょう。ズリフィカールさんが目配せをおくってよこします。
彼がなんのためにこういった仲間を引きあわせたのかわからなくなりました。友人たちの印象はいずれも遊び人といった風体です。
ただズリフィカールさんとのやりとりをみてると、それほど悪い人たちでもなさそうでした。


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