2008.01.14 (Mon)
結婚わずか3日後に離ればなれになってしまった夫婦が、60年振りに再会

―Telegraph―
1946年に結婚、わずか3日をともにしただけで離ればなれになってしまったロシアの夫婦が、60年振りに再会を果たしました。
ボロフリャンカの村。彼方に停まった車から下りてきた老人の顔をみるなり、アンナ・コロゾフの表情は固まりました。錯覚にちがいない。しかし、いくら目を瞬いてもその老人は、「夫」にまちがいはありません。「夫」とは、60年前に恋に落ち、結婚したボリスです。結婚式のわずか3日後、軍に出向いた朝にアンナとさようならの口づけを交わし、以来60年にわたって、二人はお互いに行方がわからなくなっていたのです。
結婚のきっかけとなったのは、当時先軍の将校だった夫のボリスが村で演説をしたときにはじまります。村の多くの若者が詰めかけたなかで、ボリスの目は若く、美しいアンナに注がれていました。ひと目ぼれでした。
対してアンナの父は、コルホーズでの労働を拒んだために、共産党に目を付けられてもいたのです。それを粛清する立場のボリスでしたが、恋はそれに勝りました。
「彼女を愛していた。どこまでも彼女を守らなければいけないと思った」。ボリスはそう述懐します。
激しい恋に燃え上がる二人でしたが、やがて戦争。そして戦争が終わり、1946年、前線から一時もどったボリスは慌ただしくアンナを口説き、結婚式をあげました。歴史に割かれた恋人たちの思いは、まるでお互いの運命を知っていたかのように性急でした。
結婚3日後、いったん軍にもどる必要があり、甘いキスを交わして出ていったボリス。しかし、その笑顔がこの先半世紀もの間、見られないとは誰が想像したでしょう。アンナの家族ははスターリン・パージで、人民の敵という烙印を押され、シベリアに送られてしまったのです。
「村に帰ればいつもアンナが村の入り口で待っていた。でもあの時は何の前触れもなく、アンナがいなかった。誰に聞いても知らないって言う。アンナの身に何が起こったのかもわからなかったんだ」。
いっぽうアンナの方は、家族ともどもシベリアでの伐採の仕事に明け暮れているうちに、母親から男性を紹介され、結婚に至ります。
「母が男の人を連れて来たのよ。この人といっしょにやりなさいって。まだ心の何処かでボリスと再会できることを信じていた私は、母に目の前で写真やラブレターを燃やされて、目の前が真っ暗になったのを憶えているわ。あの人は別の女の人と結婚したのと諭され、いくら拭っても涙があふれてて止まらなかった。納屋に駆け込んで首を吊ったほうがどれほど楽かと思ったわ」。
そのとき、頬をひっぱたいて彼女の自殺をとめたのは彼女の母親でした。
ボリスはボリスで胸のはりさけるような思いを書きつづりました。除隊した彼は作家になったのです。処女作となったのは若い将校と、結婚わずか3日で離ればなれになった愛妻との物語。とりもなおさず二人のことをつづり終えると、ボリスはようやく気持ちの整理がついたのか、再婚に至りました。
長い年月が過ぎました。二人の配偶者もそれぞれ亡くなり、ソビエトは崩壊しました。
アンナが自分の生まれた村にもどってみようと思ったときに、奇しくもボリスも同じことを考えていたといいます。旧宅にもどったアンナと、同時期に墓参りに訪れたというボリス。二人は昨年、60年振りに奇跡的な再会を果たしたのです。
「結婚しよう」。ボリスがアンナに60年前のあの時と同じようにプロポーズしました。いったんはこの年になって結婚をだなんてと拒んだアンナさんでしたが、この年だからこそ、残りの人生をいっしょにやっていきたいんだというボリスさんの説得に負けて、二人は再び結ばれました。
今、幸せに暮らす二人。いっしょになってから一度もケンカをしたことがないといいます。
80歳を迎えたボリスは言います。「いっしょに過ごせることがどれほど貴重かを知ってるからこそ、いっときの時間も無駄にしたくはないんです」。