2007.06.24 (Sun)
「猿の脳みそ」を食べる(1)

映画「満漢全席」のなかで描かれる「猿の脳みそ」を食べるシーン。
つくりものとはいえ、観る側に強烈な印象を与えます。しかし実際に猿の脳みそを食べた経験がある人はごく僅かでしょう。以前にもいちど紹介しましたけれど、今回は実践編でお届けします。
中国西南部、「野生動物の王国」といわれる雲南省とチベットの境目。イギリスの作家ジェームズ・ヒルトンが著した小説「失われた地平線」に出てきた架空の理想郷「シャングリラ」から名前をもらい、シャングリラ県(香格里拉県)と改称した雲南省デチェン蔵族自治州中甸県に記者は訪れました。
あまねく平和で未来永劫不変の印象をあたえる桃源郷。近年は世界中からの観光客を迎え入れ、辺境の地には四棟の高層ビルが建ちならび、多様なニーズにこたえています。
ここで秘かに食べることができるアカゲザル。SARSが流行する前までは広州あたりの飯店でも食べられたそうですが、近年は野生動物保護の制約もあり、熊の掌同様、目にすることは難しくなりました。
記者は空港から降り立ち、出迎えに来たタクシーに乗って目的地に向かいます。運転手の陳さんがミラー越しに言うには、このところ外国からの圧力もあり、ここ雲南でも野生動物を食べることが叶わなくなってきたとのこと。法の整備もあり、野趣あふれる味を食すには、ある程度地下に潜らなければいけないようです。
「あんたは運がいい。ここ二日の暑さでサルどもは喉が渇いてる。飲み水を仕掛けた落とし穴にもかかろうってもんだ」
訊くと猿の値段は調理前で2800元とか。これを広州あたりで食べるとしたら、万元にはね上がるのだそうです。しかも麻酔は現地で打つのですから、味にも影響がありそうです。
目的地のホテルの隣は森林警察局。訝る記者に陳さんはカラカラと豪傑笑いでこう言いました。「最も危険な場所が最も安全だって知ってるかい? このあいだは北京公安局のお偉方が来て、センザンコウ(アルマジロに似た有鱗目。絶滅が危惧されている保護動物)を食っていったらしいよ」。記者は胸を撫で下ろしました。
タクシーから下りた記者を出迎えたのはホテルの支配人、李氏です。さっそく李氏に従って調理場を訪れることにしました。真っ暗な厨房の貯蔵室に、やたらと動き回る生き物がいます。これが本日の晩餐、アカゲザルでした。
「こいつは若いから野生が強いんですよ。いや到着したばかりです。先月キンシコウ(金絲猴―孫悟空のモデルとなった猿。絶滅危惧種)をひいたら、猟師が二人ばかりしょっ引かれましてなあ。今日は細心の注意を払いました」と述べる李氏。記者にはおどろくことばかりです。