2006.10.09 (Mon)
10年間で1トンのガソリンを飲んだ女性

十数年にわたって、汽油柴油(気油―ガソリン、柴油―ディーゼルオイル)を飲み続けてきた女性が中国で話題になっています。
この女性は黒龍江省の大慶市大同村に住む農婦、程樹梅さんで、現地の村では彼女を知らない人はいないそう。 噂を伝え聞いた中央テレビ局のスタッフが、程樹梅さんのもとを訪れました。
朗らかな表情でスタッフを出迎えた程樹梅さん。 年齢は40代でやや肌に青みがあるものの至って健康な様子。 スタッフは招かれるままに程樹梅さんの家をぐるりと巡りました。
ここでスタッフはひとつ疑問をもちます。 なぜガソリンやディーゼルオイルを常飲しているというのに、家のまわりにジェリ缶ドラム缶の類が見当たらないのでしょう。 程樹梅さんの家からは微かなガソリン臭さえ漂ってこないのです。
その答は程なく示されました。 程樹梅さんが案内してくれたのは、庭の片隅にある小さな小屋。 スタッフを招き入れた彼女は、黒いゴムのような塊を指さします。 きちんとした精製工程を経てない石油でした。 黒竜江省大慶市は中国最大の石油の産地で、この地方では賄い用生活に使う油類は、こうした質は劣悪ながら安価で手に入れられるのです。 程樹梅さんはスタッフの前でこの黒い塊を棒ですくってうまそうに口に放り込むと、懐から採りだしたディーゼルオイルをがぶがぶと飲み干してみせました。
程樹梅さんは子供の頃からガソリンの臭いが好きだったそうです。 もともと石油の産地ですから、彼女が石油と触れあう機会は非常に多く、幼いうちはガソリンの臭いを嗅いではうっとりとしていたといいます。 ところが好奇心も手伝ってか、二十代を過ぎてから一度口にせずにはいられなくなり、こっそりと口に含み飲み下しました。 以来その味は忘れられず、車をもっている親戚に頼んでは小瓶で分けてもらい、我慢仕切れないときに飲んでいました。
しかし親戚への言い訳も尽きた彼女は、同じ油ならと、今度は家で所有していた小舟の船外機用のディーゼルオイルに目をつけました。 村は大きな湖に近く、このあたりの家々ではアヒルに餌をやるためにどこの家でも小舟をもっていたのです。
こうして彼女は量的には充たされましたが、我慢できなくなっては倉庫に駆け込むので、やがて家族の知れるところとなりました。 また村人にも話が伝わり、彼女はいわく変人、いわく超能力者と、良くも悪くもさまざまな噂につつまれたそうです。
今までに飲んだ油の量は彼女自身わからないとはいえ、一日200gを下らないとすれば、十数年でほぼ1トン。 いったい鉛やベンゼンなどの発ガン物質、有害物質が彼女の体に悪影響をもたらすことがないのかと、スタッフは程樹梅さんをハルビン医科大学に連れて行き、精密検査をしてもらうことにしました。
結果、消化器系、血液、神経などどれをとっても異常は見当たらず、数値的にはむしろ一般人よりいい数字が出たといいます。 診断ではおそらく鉄欠乏性貧血による異食症で、異食症は土を食べたり氷を好んだりといろいろありますが、彼女の場合は認知の欠陥、ミネラルの欠乏からくる貧血がガソリンを飲むことで緩和されるという反応に配線されてしまったようです。
しかしながら、程樹梅さんの異食はもうひとつありました。 農薬です。 「666粉」 と呼ばれる猛毒の農薬。 これは今から6,7年前に夫が出稼ぎに行ったとき、小舟も車もしばらく使わず、ガソリンが切れたことがあったそうです。 近隣の人たちは彼女がガソリンを飲むことは知っていても、分けて与えて夫の留守中にもし何かあったらと彼女を拒みました。 途方に暮れた程樹梅さんは、昔、農薬の匂いに魅せられたことがあったことを思い出し、倉庫に行ってこれを食べてみたそうです。
このことを聞いたスタッフは、再び程樹梅さんをハルビン医科大学に連れて行きました。 しかし、再度の精密検査でも彼女の体からは一片の毒素も見いだせなかったそうです。
彼女の持参した農薬は紛れもなく猛毒の 「666粉」。 ただし十数年前に期限が切れて、調べるに毒素は弱まっていたとのこと。 しかし、数年前、この農薬を食しはじめてから慢性の腹痛には悩まされていたことを初めて本人が明かしました。
程樹梅さんはスタッフの薦めで10日間の入院。 嗜好が変わるかどうかはさておき、腹痛のほうはだいぶ軽減されたようです。

土をかじる少女 異食症(Pica)